クロシジミ

 最近は週に1回しか撮影に出かけられない。社会人虫屋というのはこんな生活かもしれない。
日曜しか使えない、月曜に疲れを残さないなんて条件では近場の既知産地を巡るだけになってしまうのも頷ける。

…というわけで午前中だけの単発勝負。一応新産地を見つけたけど既知産地から直近だったので市町村データは変わらないだろう。

 学校に行くときより早起きしてポイントに着くと、早速足元から「ぶるるんっ」と飛び出したクロシジミ。地面に落下したそいつをみると、新鮮な♂。僕のイメージでは♂は樹上を活発に飛んでいて降りてこないというものだったから、「おかしい」と思って地面をよく見るとアリの巣がある。時計を見ると9時半。どうやら♂の羽化の時期らしい。あと30分早ければ翅の伸びきらない♂の写真が撮れたのだろう。1歩踏み出すと更に2頭が飛び出した。短い草をよく見ると…
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羽化後、間もないクロシジミ♂ 9:30AM 付近にはクロオオアリの巣がある。触角の垂れ具合が“羽化直”らしい。
 
 3齢以降の幼虫時代をクロオオアリの巣の中で過ごすクロシジミは外敵に襲われる心配もなく、エサをもらいながら完全過保護の下で成長する。おそらく幼虫での死亡率は他の蝶と比べて随分低いだろう。そんなクロシジミにとって初めての試練が羽化なのである。それまでフェロモンによって魔法にかかったように面倒を見てくれていたアリたちが、羽化した途端に最強の敵となる。しかも自分は敵地のど真中にいて、羽化後という最も動きが鈍い時に脱出する必要がある。だからクロシジミはアリの活性が低い時間帯を狙って一斉に羽化し、アリの巣から一目散に逃げるのだ。そしてその時間のピークが8~9時頃なのである。
 僕はカッコウの托卵には愛嬌がないと思うが、クロシジミの、どこか間抜けな“したたかさ”は好きである。来年はもう少し早く来て、アリの巣から逃げていくシーンを撮りたいものである。

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上と同じ個体。 10時過ぎ、ふらふらと飛んでススキにとまった。触角もピンとしている。

2008/07/13
 
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